早くチェックインをされるお客様は午後2時頃に来られることもあるが、それまでの時間が女将の喜和子の休憩時間で、観光情報誌などに目を通すこともある。
そんな時間に来客があった。すぐ近くの大手ホテルの女将で、ラウンジでティータイムとなった。
「喜和子さん。予想外のことがあってね。やはり駄目だったと分かって取り止めることにしたの」
そんな話をしてくれたが、それは喜和子も初めて耳にする出来事だった。
「最近のテレビのネットショップでも当たり前になっているでしょう。あの『0120』の電話番号のことよ。アポがあったセールスの話につい乗ってしまって導入したのだけど、悪戯電話が多くて閉口したのよ」
『0120』と言えば掛けた側の電話料金が不要というシステムだが、相手側に支払わせようという悪戯が多くなれば困るのは当然で、回線を止めてしまっても3ヵ月HPに表記されていたことからもしも控えていた人物が掛けたらつながらないということになるのでそうならないように願っていると嘆いていた。
ホテルの電話番号で知られるのは「1111」という番号で、プッシュホンが登場する前の時代にダイヤルを回すタイプだった時に、最も早く掛けられるし憶えやすいメリットがあるところから何処でもホテルが入手しようと競走した歴史もある。
航空会社やJRでも「5489」という番号で「ご予約」の語呂合わせで使用している事実もあるし、「国内」「国際」を「5971」「5931」としている航空会社も存在している。
日本人は語呂合わせが好きである。先代女将の3回忌法要の時にご住職が「四十九日が三月に跨るといけない」という迷信の謂われは、「始終苦が身憑き」という語呂合わせで嫌われたという法話をされていたし、「小の月」は「西向く士」で、「大の月」は「いざ五七夜の十王経」と教えてくださった。
「五七夜」というのは中陰期間の各七日のことで、戦いをしていた武士が精魂尽きて刀を捨て、仏教の説く「あの世」のことを考えたということで、十王とは「初七日」から四十九日までの七回と、一周忌、百箇日、三回忌の十回行われる「あの世」の裁判官のことで。「士」は「十一」、「王」は「十二」を組み合わせていることになる。
この女将から聞いた話で学んだことは、「0120」の電話番号は意図的に悪戯をされたら最悪ということで、迷惑電話が有料となるのだから考えるだけで割に合わない話であり、喜和子は絶対に導入する思いに至ることはなかった。
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