女将の寿美恵は定期的なセミナーに参加している。主催は観光グループや旅行会社が加盟する組織団体で、今年の6回の講師を担当するのはホテル業界では知られる人物だった。
都内のホテルが会場となっているが、都内に在住して学生時代からの友人もいるので当日の夜に会って食事を共にすることも楽しみで、今回のディナーは宿泊していたホテルのレストランだった。
今日の講義で学んだことで驚くことがあった。「ホスピタリティー」というテーマで国際的な会合も開催されているそうで、日本からホテルの経営者や旅館の女将の参加も多いことを知った。
今日は30分間だったが、ホテルや旅館に関する行政の担当者の講義もあり、外国人の観光客は増えているが、旅館という施設数が減っている事実にびっくりした。建物の老朽化も減員しているみたいだが、法改正で耐震対応を義務付けられたことが大きいようで、多額な借り入れで建て直したところもあるが、中には高層だった部分の階数を減らす工事でクリアしたところもあるそうだ。
全国に3000個所以上の温泉があり、源泉の数は27000個所以上あると知ったが、湧出量が微妙に変化しているところも少なくないそうで寿美恵も気に掛かる課題となった。
源泉を発掘された伝説についての話題に興味を抱いた。我が国では「弘法大師」が発見されたという温泉が20カ所あり、謐号で行基菩薩として知られる高僧が17カ所もあること知ったが、生活人口1万人に対して客室数が多いのは沖縄県、長野県、北海道の順だそうで以外に感じた。
全国に同名の温泉の存在が少なくないことも知ったが、「山田温泉」というのが埼玉県、富山県、沖縄県、宮崎県、沖縄県、長野県、北海道の7カ所もあるし、「湯沢」「湯ノ沢「湯の沢」「湯澤」などは15カ所もあることを知ってびっくりしたが、お客様との会話の中で話の種になると思ってメモをしていた。
次の日の朝の特急列車で最寄り駅に着いたが、寿美恵はいつもスタッフに迎えの車を頼むことはなく、駅前にあるタクシー乗り場からタクシーを利用していた。
それは、一つは自社の車の事故の遭遇率を下げること。もう一つはタクシーの車内で運転手さんとの会話をする目的があったからだ。
駅前から旅館までタクシーを利用されるお客様もあるし、旅館から駅までタクシーという
お客様もあるが、車内で旅館に対する問題を指摘されていることも考えられ、そんな情報を入手したいからだった。
駅前にいるタクシーの会社は2社あるが、両社の運転手さん達の顔は憶えている。寿美恵が利用した時には少額だが心付けも用意しており、可愛いポチ袋の上に「きもち」と天眼鏡で見なければ読めないような小さな平仮名で書き、下には旅館名を入れているので全ての運転手さんやタクシー会社の経営者や事務スタッフまで知れ渡り、タクシー手配を電話する際に旅館名を伝えると特別に愛想よく対応してくれているので嬉しいが、運転手の皆さんに当館のお客様の会話で当館に対するお言葉があったら教えて欲しいと頼んでおり、そこで気付いて改善したことも幾つかあった。
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