今日は午後から中広間で先代社長の七回忌法要が行われた。女将の祥恵にとっては義父にあたるが、現社長と結婚して若女将になった時に厳格な人柄でも旅館とは何かをしっかりと教育くださった人物である。
導師を務めてくださったのは温泉地の山手の高台にあるお寺の住職。宗旨は高野山真言宗で、十数軒ある温泉旅館の大半がこのお寺の檀家で、組合長が檀家総代をしており、今日も出席してくれていた。
この温泉地で檀家でない旅館は経営者が変わったところで、これも時代の流れだろうかと組合長が寂しそうに語っていたことが印象に残っている。
法要が終わって「御斎」のひとときとなったが、ここで住職から言葉が掛けられ、高野山へ参拝する1泊旅行があるので参加しないかと誘われた。
高野山への参拝後にバスで宿泊地へ移動する行程だが、そこは「日本三大美人の湯」の一つとして知られる「龍神温泉」で、次の日は熊野川をジェット船や那智の大社の参拝もあり、最近に人気の高い熊野古道の一部が組み込まれていた。
「三大美人の湯」のことを話題にしたのは組合長だが、彼はそれが群馬県の「川中温泉」と島根県の「湯の川温泉」であると話題を広げ、「女将は美人だから龍神温泉に参加しなければならない」と冗談まで飛び出したが、意外なことに横にいた夫である現社長が「女将を参加させます」とお願いし、住職が「大歓迎です」と笑顔を見せられた。
夫の思いは前社長が「高野山に1回は参拝したい」と言いながら実現出来なかったことがあり、それを祥恵に託したいということもあった。
住職のバッグの中から出された行程表を見ると、新幹線で新大阪駅まで行き、地下鉄難波から南海高野線の特急を利用するとあったが、バスは高野山からの移動と次の日の午後3時頃まで利用し、新宮駅から紀勢本線で名古屋に帰るという強行軍だったが、高野山参拝だけではなく、熊野や那智の滝まで含まれているので檀家さん達の参加が多く、もう数名でバスの定員に達すると説明されていた。
我が国は「三大」という比較表現が多くあるが、組合長が「日本三大美肌の湯」もあって、「佐賀県の嬉野温泉」「島根県の斐乃上温泉」「栃木県の喜連川温泉」だと皆さんに説明してくれた。
祥恵の旅館がある温泉はこれと言って特徴はないが、歴史の古さは伝わっており、温泉ファンの中では「名湯」と称されていた。
参拝は4月の初めだが、計画当初は高野山の宿坊を利用する予定だったそうだが、檀家さん達の声から温泉に変更したという裏話をされて住職は組合長の車に同乗されてお寺へお帰りになった。
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