ある日の午後、女将会の発行している機関誌の打ち合わせに女将仲間の旅館を訪問した朋子だが、玄関からロビーに入ると女将が一人の女性スタッフに説教をしている様子で、朋子の姿に気付くと「いらっしゃい、あなたもここへ来て指導してやってよ」と呼ばれた。
そのスタッフは食事処を担当することになった新人だそうで、今日チェックアウトされたお客様がフロントでの精算時に笑いながら「マクドナルドみたいな言葉遣いは駄目だね」と言われたとのこと。
調べてみたら昨夜の食事処の夕食での出来事。お客様がビールを注文され対応したのだが、名柄を確認するのを忘れてしまい。アサヒのスーパードライを持って行って「大丈夫でしょうか?」と発言したというものである。
「大丈夫でしょうか?」と飲食店で聞かれると違和感だけではない問題が起きるのは当たり前。提供する飲食物の賞味期限のことをイメージする人もあるだろうし、口にされる側の人の体調を確認されているみたいにも聞こえるのでおかしな「若者言葉」となる。
コンビニで1万円札を出すと「一万円からでよろしかったでしょうか」と過去形に問われることもあるし、喫茶店でモーニングを注文したら「こちらがモーニングになります」とテーブルに出され、今から何か変化が起きるのだろうかと思われることも少なくない。
消費税の増税に関して持ち帰りと店内で飲食する場合での課税の対象で話題になっているが、マクドナルドのマンネリ化したマニュアル発言で面白い逸話が語り継がれている。誰もいない店内に一人で入ったお客さんが10個のハンバーガーを窓口で注文したら、「お持ち帰りですか?それともお召し上がりで?」と対応されたというものだが、一人で10個も食べられる筈がないだろうという笑い話みたいなやりとりである。
マニュアルがマンネリ化するとお客さんを立腹させることもある。コンビニで酒類や煙草を購入すると年齢認証の画面にタッチするシステムがあるが、70歳を超えられるお客さんに「タッチして年齢確認をしてください」と言ってしまった瞬間に「俺が18や20に見えるのか!」と怒鳴られたという出来事も知られている。
「ねえ朋子さん、最近の若い人達の言葉遣いは理解出来ないことが多いわね。フロントで対応していたベテランスタッフも嘆いていたけど、あなたの旅館のスタッフ教育はどうなの?」と質問をされ、朋子も同じような問題で悩んでいると返したら表情が和らいだ女将だった。
そこで説教は終りとなり、朋子の来館が救いとなったみたいで女性スタッフが恥ずかしそうに一礼をして席を離れたが、指摘されていないケースもあると想像すると恐ろしい問題であった。
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