宿泊くださるお客様への部屋へご挨拶に参上するのが女将の友梨佳の日課だが、お客様から伺う話の中で大きなヒントをいただいて考えたサービスも幾つかあり、その一つが幼い子供さんのためのお子様ランチの食器の準備だった。
ある日、五十代のご夫婦のお客様が来られていた。ご挨拶に参上したらお孫さん談義になり、数日前にお孫さんが大好きだと言われるアンパンマンの作者の故郷である高知県土佐山田にあるアンパンマンミュージアムに行かれたそうで、その時に昼食に立ち寄られた隣接するホテルのレストランでのことを次のように言われた。
「いやあ、びっくりしたね。食器の全てがアンパンマンのキャラクターだったし、お子様ランチのメイン料理がオムライスになっており、それもアンパンマンで驚いたけど、添えられていた『ふりかけ』までアンパンマンのデザインになっていたのですから」
お2人の話によると、お孫さんは3人いるそうだが、3歳ぐらいまではアンパンマン。5歳ぐらいになるとドラえもんに興味を変わったと言われ、女の子はキティーちゃんのおもちゃを与えていたという体験談を聞いた。
「アンパンマンのミュージアムに連れて行ったのは2歳になったばかりの孫だったのだけど、入り口を入ったところに大きなバイキンマンがあって、それを見て固まってしまい、足下を観ると震えていたのだからかなり強烈なインパクトを受けたみたいで、その夜に泊まった旅館で興奮気味で寝付きが悪くて娘が困っていたよ」
幼い子供達にこれらのキャラが大きな影響を与えることは事実で、友梨佳の孫達も同じような歴史があるし、幼い孫を娘から預けられた際、機嫌が悪くなるとアンパンマンのビデオを見せてあやしたことを思い出した。
その次の日、料理長と相談して料理の対応を考えることを決め、2人の事務スタッフに新幹線の駅に直結しているデパートに行かせ、キャラクターの食器を調べに行かせ、事務所スタッフにネットで調べて関係するような情報をプリントアウトするように命じた。
そんな行動からやがて幾つかのかわいい食器が揃い、料理長に見せたのだが、彼は中途半端が嫌いで、何でも徹底的に追求することから試行錯誤を繰り返し、幾つかのパターンとして提案されたものが友梨佳に見せられのは半月後のこと。料理長の真剣な取り組みが見事な「かたち」として完成しており、早速スタッフが撮影してメニューの案内パンフの制作を始めた。
全てが整って10日ほど経った頃、2歳ぐらいのお子様を伴われた3世代のお客様がご利用くださった。コネクティングルームがないので2室を提供させていただくことになったが、夕食時にアンパンマンを選択されたお母様も驚嘆されるほど完成度は高く、子供さんの様子を見たいと思っていた友梨佳も担当の仲居と一緒にお部屋でサービスを行ったが、子供さんの嬉しそうな表情はこの企画に取り組んでよかったと嬉しくなった瞬間となり、その後に下がった時に厨房に立ち寄り、その報告を料理長に伝えたら料理長も嬉しそうな表情となった。
この企画は朝食時にも対応されているのがこの旅館の考慮で、ご機嫌の悪かった子供さんがそれを目にして一変されてご機嫌になり、楽しそうに朝食を進められた。
そしてチェックアウトの時、お爺ちゃん、お婆ちゃん、ご両親から嬉しい感謝のお言葉を頂戴し、心の中で「アンパンマンさん有り難う」と手を合わせた友梨佳だった。
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