その日のチェックアウトのお客様をお見送りしてから女将の須磨子は、ティーラウンジでコーヒーを飲みながら新聞に目を通していた。
そんな中、社会面に「都内のパチスロ店、違法発覚で営業停止」という見出しに目が留まった。内容を読んでみると信じられない出来事だった。
あるパチンコ店で常連客の間で噂になっている五十代の女性がいた。彼女は開店時間の午前10時に来るとすぐに決めていたかのようにどこかの台に座り打ち始めるのだが、誰もが信じられないぐらいにいつも大当たりが続き、あまりにもおかしいという疑問がいっぱい出ていたのである。
それをある客が知人の警察関係者に話したところ、俗に言われる「風営」担当の警察官に伝えられ、やがて警察官が客に交じって内偵捜査を始め、数日後に確信に至って営業中に捜査員達が踏み込んで調べたところ、その女性が打っていたパチンコ台に違法な仕掛けがあることが発覚。そのまま営業停止に至ったものであった。
「世の中にはそんなこともあるのだ!」と思った須磨子だったが、その事件にまさか自分の息子に影響が及んでいるとはその時に想像することはなかった。
次の日の朝、息子から「母さん、助けて!」と電話があり、何事かと事情を聞いて腹が立って説教をすることになってしまった。
須磨子の息子は都内の大学に通っており、郊外にあるワンルームマンションで生活をさせており、毎月彼の口座へ学費以外に生活費と小遣いを送金していたのだが、その息子が「予定が狂って食事も出来ず、学友の一人から借金をしたというものだったからだ。
予定が狂った「想定外」というのが新聞記事に掲載されたパチスロ店で、彼はその店の会員になって約5万円の残高がカードに残っており、1割損をすれば引き出して現金化出来るのでこれまでにも「9000円」ずつ何度か引き換えていたらしいのだが、その店舗が営業停止になってしまったのでどうにもならず、須磨子に助けを求めて来たものであった。
「店舗の前に『おわび』と書いた掲示があってね、会員の皆様の残高につきましては後日に必ず返金いたしますのでご迷惑ですが、なんて書いてあるのだけど、それがいつになるか不明なので困ってしまって」
「勉強しないでそんなことをしていたなんて母さんショックよ。何を考えているのよ。神様が罰を与えたと思いなさいよ」
「ごめん、もう懲りたから二度としないから今回だけ助けてよ。それからお父さんには内緒でね」
もしも厳格な夫がこんなことを知ったら「すぐに中退して帰れ」ということになるだろう。それを想像出来るところから須磨子だけの対処ということにしたが、これで息子の心が入れ替わるとは思えない須磨子だった。
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