熊本県で大きな地震が発生し、甚大な被害が出ている現実をニュース映像で伝えている。女将の瀧江が気掛かりになっている旅館がある。熊本県の山間部にある温泉地の旅館だが、交友関係があるところから何度か行ったことがある。
交流が始まるきっかけになったのは瀧江の旅館の料理長とその旅館の料理長が兄弟弟子で互いに「親ッサン」と呼んでいる師匠がこの世界で知られる料理人だった。
地震の発生を知ってから何度も電話を掛けたが、2日間全くつながらずに焦燥感に苛まれていたが、料理長が「やっと通じました」と聞いた被害の状況を知った。
最初の大きな地震の時には一部の食器が落ちて損壊した程度だったが、その後の深夜に起きた「本震」と呼ばれる地震によって厨房内の大半の器が落ちて割れてしまったそうで、厨房を片付けるにも余震があるので館内に入ることが出来ない状況だそうである。
女将が心配しているからという伝言から、その日の夜に女将から瀧江に電話があったが、交通機関が不通になっていたことから宿泊されていたお客様を送り出すことも出来ず、無料でもう一日宿泊していただいたそうで、厨房の食器が壊滅状態だったので、自宅で無事だった物で何とか対応したことを知った。
「今月のご予約のお客様は全てキャンセルとなったの。こちらから事情を説明したケースもあるけど、電話が通じると鳴りっぱなしで、FAXやネットのメールでもキャンセルばかりで落ち込んでいるのよ」
そんな言葉に掛ける言葉が見つからなかった瀧江だが、「私の旅館のご利用者にあなたの旅館の割引宿泊券を発行して応援するから頑張って」と伝えた。
それはスタッフに依頼して割引券を製作して貰い、宿泊料が割引されます。割引分は当館が負担します。大変な被害に遭っている熊本県内の温泉旅館にエールを!」というキャッチコピーで訴えるものだが、廊下やエレベーター内にも掲示することを命じ、やりとりがあった次の日のお客様に手渡すことをしていたが、「何も出来ないけど寄付する他に、観光地を訪れることも支援になるよね」と温かい声を掛けてくださった方もおられた。
料理長は厨房の食器を確認しながら取り急ぎ余分になるものを選び、後日に宅配便で送りたいと瀧江に相談があったが、「すぐにでも行動しなさい」と返した。
阿蘇山の麓に夫と行った温泉があった。垂玉温泉の山口旅館というところだが、そこも今回の地震で大きな被害が出ていることをニュース映像で知った。
そこへ行ったのは車で熊本方面への旅行をした時のことで、夫の車で大津から57号線を阿蘇の方へ向かい、立野から右折して阿蘇大橋を渡ったが、その橋も崩落している報道で衝撃を受けた。
橋から高森の方へ向かい、しばらくしてから阿蘇の方へ左折して細い道を走るのだが、途中で擦れ違う車があったらどうするのというような細い道で、前から車が来ませんようにと祈りながら走ったことを記憶している。
その温泉の存在を知ったのはお客様の情報からで、話の種に一度は行っておくべきだと言われたことがきっかけだったが、アクセスする道路の途中で土砂崩れが発生して通行が出来なくなっているというニュースに地震の恐ろしさを改めて認識した。
昨日、観光組合の臨時会合が行われた。テーマは観光産業が自然災害で致命的な被害を被る危険性があるということで、各旅館が募金箱を設置してお客様にご協力を訴えようという決議となった。
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