優香が女将をしている旅館の事務所には「007」というニックネームで呼ばれている若い男性スタッフがいる。彼の本名は荒川だが、なぜそう呼ばれるかは彼の日常の仕事内容にある。
予約の全てを担当している責任者でもあるが、女将の命を受けて同業である旅館やホテルの情報を集め、新しいサービスや興味深い問題に気付くと女将に伝えることも仕事であり、近隣の同業旅館やホテルのHPは隅々まで調べ、全てを把握していた。
時間があればネットで全国の旅館やホテルの情報入手を目的にHPを開いているが、意外とミス表記をしているのに気付かないケースもあり、女将に報告しながら一緒に確認して信じられない事実があることに驚いた出来事もあった。
山陰地方で知られる温泉地の大規模な旅館だが、「特別室」が「特別質」になっていたのも面白かったし、四国の知られる温泉地の大きなホテルのHPに、立体的な館内地図があってカラオケルームの存在があり、それをクリックすると入り口の光景が見られるのだが、「坊ちゃんルーム」が「赤ちゃんルーム」になっていた。
旅館側は全く気付かないケースで深刻なミスがあった。伊豆半島の知られる温泉地だが、地元の観光協会が宿泊施設を紹介しているページがあり、約40軒が掲載されており、宿泊料金も併記されていたのだが、ある旅館が「素泊まりで150000円」からとなっており、きっと「0」を余分に加えてしまった単純なミスと考えられるが、2年経過してもそのままだったので、この間にこのHPからその旅館を予約されたお客さんはそれこそ「0」だったと想像する。
誤変換をそのままにしてあるケースはいっぱいあるし、特に目立つのは口コミサイトの書き込みに返信している旅館の担当者の書き込み。そこには誤字、脱字、字余り、誤変換がびっくりするほど多く、きっと面倒だと思いながら義務的に対応しているような感じがする。
荒川の提案からHPのリニューアルをしたことがあった。ネット社会になって多くの紹介ビジネスが登場し、旅館名やホテル名で検索してもトップにヒットせず、トップページは全て旅行会社が並んでいるというケースもあり、多くの旅館やホテルが直接予約をして貰おうと「公式」という文字を表記していることも増えている。
荒川の提案はさすがに「007」らしいものだった。お客様が「検索」されるであろうキーワードをうまく組み入れており、常に検索でトップにヒットするようになっているのだからびっくりである。
荒川が入社してからしばらくした頃、事務所で優香に「これを見てください」とびっくりすることを教えてくれたことがあった。
それは、お客様が「高級旅館」というキーワードで検索した場合、高級旅館でないのにヒットする仕掛けがあるという事実で、「当両館は高級旅館ではありませんが」と表記されているのも対象になって来るからだった。
優華の旅館はそんな荒川の製作したHPのお蔭でネットから予約されるお客様が多く、その場合の特典も優香の旅館独自のオリジナルになっている。
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