昨日は観光組合の会合があり、温泉旅館組合の役員達も出席した。弥生が女将をしている旅館があるのは長野県の東京寄りのところだが、20数軒のホテルと旅館がありその中で格式のある和風旅館で、弥生は伝統と誇りを受け継ぎ和の有する重みを大切にしていた。
歴史のある温泉地で、明治大正時代には知られる文豪が滞在して大作を執筆していたことでも知られており、今でも文学ファンの人が訪れて来ることも少なくない。
その役員会から戻った夫である社長は数日後に料理長と一緒に九州へ行って来ると言い出した。目的は雲仙で知られる高級旅館の「宮崎旅館」で、目的は宮崎旅館の料理長の料理を体験してみたいからで、日本航空のファーストクラスの機内食のプロデュースを指名されたことを知り、興味を抱いて行ってみたいという行動だった。
宮崎旅館は過去に先代女将と弥生が九州旅行へ出掛けた際に宿泊した思い出があり、チェックイン時からチェックアウト時まで一人の仲居さんが担当してくれたことが印象に残っており、「こんなことが出来たら理想だね」と先代女将が仰っていたことを憶えている。
その時に感じたことを夫に話し、女将という立場でチェックして来て欲しいことも依頼し、夫と料理長の九州行に賛同した。
新幹線で熊本駅から「観光特急 A列車で行こう」で三角駅に行き、天草五橋を経てフェリーで渡るコースもあるが、夫達は羽田空港から長崎行の飛行機を利用するそうで、もう予約を入れていたことを知った。
弥生は折角九州へ行くのだから1泊は勿体ない。何処かへ立ち寄って来たらと、長崎県内なら嬉野温泉、小浜温泉。熊本県内なら玉名温泉、平山温泉、植木温泉、山鹿温泉、菊池温泉、内牧温泉、黒川温泉。福岡県内なら原鶴温泉、二日市温泉などを提案し、全国の女将研修会で知り合った女将のいるところもあるからと言ったが、夫はJRで博多へ戻り、博多市内のホテルを予約しており、福岡県内に在住する友人と中州の屋台で飲む約束をしていることも打ち明けられた。
帰路は福岡空港から羽田へ戻るが、国内線でもファーストクラス設定があるそうで、どんな機内軽食が出されるか楽しみにしていると言ったが、しっかり者の弥生はマイレージを忘れないようにとくぎを刺していた。
料理長は立ち寄りたいところがあるので雲仙からは別行動をしたいと話があった。彼は料理を出す器に興味を抱いており、この際に有田や伊万里の窯を見学したいと言っていた。
素晴らしい作品を見ると欲しくなるのが常だが、弥生はそんな配慮を考えて30万円の予算を料理長に与えることにしたが、料理長はその気持ちが何より嬉しかったみたいで、潤んだ目で頭を下げていた。
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