テレビのニュースも新聞の記事も熊本の地震に関することが多い。想像もしなかった甚大な被害の様子や避難を余儀なくされている多くの方々のことを考えるとどうにもならない焦燥感に苛まれる女将の和希だが、社長を務める夫も同じ思いで焦っていた。
夫はこの温泉地の観光組合の副組合長を務めており、今回の出来事で対応しなければならない問題で悩んでいた。
それは地元の町の観光課と熊本の山間部にある温泉地の観光課と、互いの振興に関する行政間の交流から両組合の交流に発展し、昨年のお盆の後と12月初めに互いが研修をテーマに訪問し合っていたからだった。
朝から観光課長と組合長が和希の旅館に来館、夫を交えて話し合っており、両組合の女将会での交流もあるところから和希もそこに加わっていた。
「源泉からのパイプが損壊して宿泊施設への温泉が届かない事態になっているそうです」と観光課長が得た情報を伝えたが、宿泊されていたお客様を送り出すにも交通機関が運休状態にあり、旅館が助け合ってマイクロバスで対応しようと考えても高速道路の通行止めや一般道でも土砂崩れの影響や路面の起伏で通行が困難ということもあり、どうにもならないと窮状を訴えていたことを知った。
1時間ほど話し合った結果に「やるべきこと」と決まったことは各旅館が今後の営業活動に関してフォローすることで、短期のキャンセルだけではなくその影響が長期に及ぶ可能性もあり、組合員一同が「お互い様感情」で支援をすることでまとまり、観光課長が相手側の行政窓口と合議を重ね、どのように行動を具現化させたらよいかを打ち合わせて貰うことになった。
組合長は何度か現地の組合長と電話で話したそうで、その中で復興に関して加盟しているホテルや旅館全てで先方の温泉地を紹介する企画を伝え、加盟メンバー各社が現地の温泉地の割引クーポン券を発行することでも協力を惜しまないと伝えたことを聞いたが、これは組合長と夫が話し合って考えた案だった。
熊本県内だけではなく、福岡や鹿児島の宿泊施設でもキャンセルが多く、特に外国の観光客には「日本は危険」ということから旅行そのものを取り止めたケースも流れており、今回の出来事が想像以上に深刻な現実を迎えていることを心配する女将夫婦だった。
個人的に交流のある女将に電話を入れた和希だが、近道となっているアクセス道路が路面の崩壊から通行止めになったが、1時間ほど遠回りになる幹線道路が何とか通行出来るようになったのでお客様を孤立させることだけは解消したと知って安堵した。
水道、電気などのライフラインも停まっているが、ガスに関しては簡易コンロの備えがいっぱいあるので何とか凌げるそうでも、肝心の源泉が届かなかったら大問題である。すでにいつもの建設会社が復旧に向けて行動を始めているそうだが、この数日で何とかなりそうだと語っていたが、築年数の古い1軒の旅館が柱に亀裂が入って危険というところから
建て直しをしなければならないという問題も出ていた。
和希の旅館もいつ大きな地震が襲来するか分からない。鉄筋建築とはいえ築年数は新しくないので心配もある。近々に耐震について専門家を招いて調査をして貰おうと夫と意見が一致した。
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