知られる温泉地で中堅旅館の女将を務めている理絵だが、女将会の中で広報を担当しており、今日は昼前に十数軒の旅館を回って女将達にプリントを配布しようと考えていた。
こんなかたちで各旅館に入ることも勉強になるし、気付いて採り入れたことも少なくないが、逆の気付きでは社内会議で気を付けようと話し合ったこともあった。
歴史ある大きな旅館に入ったら、ちょうど女将が中庭側の大きなガラスを磨いている最中で、理絵の姿を見ると「いらっしゃい」と声を掛け、日中も営業をしている喫茶ラウンジコーナーへ案内された。
「まあ、この仕事をしていると色々なことが起きるわね。考えてもいなかったことがお客様からのクレームというご指摘で初めて知ることになったこともあるけど、今日もチェックアウトの時にちょっとした問題が浮上してね、私が頭を下げて謝罪する事件があったの。
出された香りの素晴らしいレモンティーにシュガーを入れながら、どんなことが起きたのかと思っていたらその出来事について詳しく話してくれた。
チェックアウトの際にお預かりしている車のキーをお返しするのだが、チェックインの時に玄関横の駐車場に停めた車が別の駐車場へ廻されていたことから、10分ほどロスが出てお待たせしてしまうことになったといことだったが、この背景には想像もしていなかった「区別」と「差別」という問題も絡んでややこしく発展してしまったのである。
そのお客さんは2台の車でご到着、1台は外車でもう1台は国産車。外車だけを玄関横に駐車させ、国産車を離れた駐車場へ廻していたことが気分を害されたらしく、「これはおかしい。チェックインをした時は2台並べて駐車したのに」というご指摘だった。
そんなことまで考えていなかった女将だが、玄関スタッフに確認してみると随分前から玄関横は外車専用にしているそうで、それが当旅館の格式につながるという発想だったらしいが、結果としてこんな事件に至ってしまうことになったし、嫌な感じでお帰りになったお客様もおられたのではと考えるとことは簡単ではない複雑な問題も秘められており、どのように対処するべきかを早急に検討するように命じたそうである。
理絵の旅館は10数室のこじんまりとした旅館で、玄関横と隣接する駐車場で対応が可能だが、マイクロバスだけは観光地が経営している有料駐車場へ回し、その料金は旅館側で支払っているが、大規模な旅館では離れた場所に自社の用地に有し、そこを駐車場にしていることもあるのでこんな問題になるのだろうが、「区別」と「差別」という教訓はその後の理絵の心の中に刻まれる貴重な学びともなった。
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