「随分と悪くなっていますよ。出来たら集中的に治療したいので3回ぐらい通っていただけますか?」
「えっ!ここまでですか?」
「そうです。毎日曜日に来ていただければ1回で5時間ぐらい治療しますから。ちょっと技術的に難しい治療が必要でして、普通に通っていただければ3か月間ぐらいも要する状態なのです」
片道5時間である。土曜日の夕方か夜に大阪を出発して現地のビジネスホテルにでも宿泊しなければならない。自宅近くに数軒の歯科医があるが、週に2かいぐらい通院して3ヵ月も要すると言われて重たい心情になり、それが3回で可能となるなら片道5時間の覚悟もなんて思いも生まれたが、片道5時間なら往復10時間という発想までは至らなかったことが現実として大変な負担となることに気付かなかった。
そんな診察結果を聞いて帰宅したら。夕方に7奥さんから妻に電話があったそうで、借入金を返済出来る状態ではないので、治療費で相殺とういう提案があったことを知り、それを受け入れて甘えることになった。
その次の土曜日の夕方に自宅を出発、予約をしていたホテルで宿泊。次の日の朝食を済ませ、そのまま歯科医院での約5時間の治療を受けるのだが、大阪へ戻る帰路の歯の状態は言葉で表現不可能なほど違和感を覚えるもので、3日間ぐらい何とも言えない辛さに対峙することになった。
2回目の土曜日は想定外のことが起きた。午後7時からのお通夜の進行を終えてから出発したので現地への到着が12時を回り、予約しなくても大丈夫だろうと思い込んでいたことが拙く。なにかの学会が行われていて満室となっており、ホテル側の了解を得て駐車場に停めた車の中で一夜を過ごすことになった。
ホテルのベッドと車の中で寝るのは雲泥の差。熟睡出来ない状態で外が明るくなるまでずっと熟睡出来ずにいた。
約束の時間は午前9時、午前中から昼過ぎまで4時間半の治療を受ける。技工士の資格を有している奥さんも型を取ったりする作業をやってくれたが、先生がドリルを手に削る治療は何とも言えない恐怖感に襲われる。ヘッドホンで静かな音楽を聞いている環境を整えてくれていたが、やはり痛くなかってもドリルの振動を感じてしまうのでそれが痛みのような感じになる。
4時間半で削り終わって型を取ってその日の治療を終えたが、それから5時間も運転をして帰阪しなければならない。削られた部分におかしな感じを覚えながら幹線道路から高速道路を経て帰宅したのは午後8時前だった。
その次の日曜日は4時間を要して治療が終り、熱伝導に優れているという金の冠が被せられたが、外れないがために無理にきつめに施術されており、そんな違和感が消えるまで4日間も掛かった。
高速道路の最寄りインターチェンジから目的地に向かう途中に、その県内で知られる温泉地があり、国道の両側に十数軒の旅館が軒を並べている、往復で通行する際にここへ来る目的ならどれほどいいだろうと思いながら通過し、歯の治療の鬱陶しい宿命に後悔していた。
歯科医の治療が大好きという人は少ないだろうが、これらの体験から歯の治療は早期発見と早期治療が重要で、ガンという病気と同じようだと思っている。
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