悪い状況にある会社や組織ほどミーティングや会議が多いという指摘があるが、奈津美が女将をしている旅館は毎月第2月曜日の午前11時から1時間の会議が定期的に行われ、終ってから昼食を共にするのが昔から慣例になっている。
今日の会議で総支配人が準備した資料プリントが注目され、誰も考えなかった現実を知ることになって今後のために取り組みをすることになった。
「資料をご覧ください。昨年度と今年度で当館をご利用くださったお客様の平均年齢を分析したものですが、子供さんは対象にしていません。この結果からはっきりと見えて来ることは、当館のお客様はご高齢の方が多いということが分かります」
子供さん達を伴った家族連れ来館されることは少ないし、大半がご高齢のご夫婦で、その平均年齢は60歳を超えている事実が判明した。
その事実指摘に関して驚いた社長である夫は、「大いに学ぶことになる分析だった」という意見を返し、来年度初めに計画されているリニューアル工事で3世代を歓迎出来るようにコネクティングルームを考えることになった。
孫を伴った高齢者の旅行要望が増えている事実もあるし、3世代をキャッチコピーに打ち出すホテルや旅館も多くなったが、それは団塊世代を中心とした年代の人口が突出している事実に裏付けされており、旅行会社の企画でも団塊世代向けのものが多くなっている。
定年退職を迎えられて退職金を支給されている人も多いし、年金を受給して余裕のある生活を過ごしている人も多く、孫の入学に際しランドセルを購入するニュース映像を観て殺到する人数に驚いたこともあるが、この年代をお客様としてターゲットにしないことは時代の潮流から離れていると言えるだろう。
そんな時、何か意見を言いたそうにモジモジしていた仲居頭に気付き、奈津美は「提案があったら遠慮なく言ってくださいね」と促した。
「はい、あのう、ご高齢のご夫婦が多いということは私も感じていましたが、そんなお客様をリピーターとしてお迎えする発想も大切なように思えるのです。例えばですが、お孫さんとご一緒特典割引カードなんて貰ったらどうなのだろうかと思うのです」
それを聞いた社長が「面白い。それいただきだ。すぐに企画することにしよう」と、同席していた事務所の企画室長に「親孝行」を組み込んで企画をと託することになった。
会議が終わってからの昼食にも一つのテストケースが定番となっている。この会議には料理長も出席しているところから、厨房の若いスタッフ達が創意工夫して食事を準備することになっているからで、単なる「賄い料理」ではなく彼らが作った物を社長、女将、料理長、仲居頭達が食べてくれるのである。そこで評価される意見は彼らの今後の研鑽にあって貴重な体験となることで、料理長はそれについて一切自由にさせていた。
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