慈慈子が女将になったのは2年前。先代女将が突然の病で入院され、1ヵ月も経たない内に亡くなったからだった。
急に立てなくなったことから夫と付き添って病院へ行ったのだが、担当された医師から検査の結果を伝えられた病名にびっくり。「何時の間にか骨折」というもので股関節に重篤な問題があった。
その数年前から「骨粗鬆症」と診断されて気を付けていたが、余りにも突然の発症でショックだった。
カルシウムのサプリメントを購入したり、毎食に縮緬雑魚を用意するようにしていたが、昔から牛乳が苦手だったらしく、DNAを継ぐ夫のことを心配していた。
そんな慈子が軽率な行動から痛い目にあった。事務所の棚の上にある物を取ろうと事務机用の椅子の上に乗ったのだが、何かの弾みで回転してしまって落下し、その瞬間に腰の横を机の角で強打した。
それは土曜日の午後で近くの外科医院の休診。月曜日に行こうかと考えながら少しでも痛みが和らげればと近所のカイロプラクティックに行った。
整体師の先生が「ここですか?」と患部を抑えたら激痛が走り、「ギャア」という叫び声まで上げてしまったところから先生が「普通じゃない。県立病院の救急外来に行ってレントゲン撮影をされるべきです」とアドバイスされ、そのまま夫の車に乗せて貰って県立病院へ直行した。
レントゲンの結果では少し異変の兆候があるからと、念のためにMRI撮影を受けることになった、その結果にびっくり。何と圧迫骨折ということが判明したからだ。
もしもカイロプラクティックの先生が病院での診察を勧めずに患部を押さえる医療行為をしていたらもっと酷くなっていたと想像するとゾッとしたが、慈子は入院を余儀なくされることになった。
「食事制限のない入院だから毎日料理長に頼んで差し入れするよ」と夫が笑っていたが、「しばらくゆっくり休んだらいい」という言葉が今までにないほど優しく感じられた。
回診の先生に「骨粗鬆症の可能性はないですか?と質問したら、「念のために骨密度を測定します」と言われたが、それは先代女将の闘病生活を思い出したからだった。
慈子も40歳を過ぎている。同年代の友人達に更年期障害に悩んでいる人達も出て来ている。退院してから食生活に気を付けようと考えさせられた体験となった。
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