20日ほど前、交友関係のある大手旅行会社の部長から電話があった。義理のお父様が入院されているそうで、半月ほどしたら退院出来るらしく、退院祝いと養生を兼ねて3日間の連泊を頼まれることになった。
1泊目は部長夫妻もご一緒されるそうで、その他にご兄弟夫妻も来られるので3部屋要望され、2日目、3日目はお父さん夫妻だけということだった。
入院は腰椎の手術だったそうで、食事に関する制限はないそうだが、女将の伊津美は部長に6人それぞれの好みや嫌いなものを纏めてFAⅩかメールで送信して欲しいとお願いし、それが届いたので料理長と細かい打ち合わせを行い、特別な食材の仕入れを手配していた。
部長と伊都子の夫である社長とは学生時代から交友関係があり、部長からアドバイスをされたことを具現化して業界で話題になったこともあり、それこそ特別に待遇をしなければならないと考えていた。
3泊4日となれば2日目と3日目の昼食の準備も必要だし、夕食のメニューも考慮しなければならない。部長がわざわざ当館を選んでくれたことも嬉しいことで、仲居頭に命じて部屋に準備する浴衣の着替えをⅬ・M・Sそれぞれを5セットずつ用意し、何度でも着替えていただけるようにして、散歩に出掛けられることも想定して下駄ではない履き易い草履と暖かくてお洒落な丹前を用意。手袋とカイロの準備もしており、公共の外湯へ行かれることも勧める予定で、外湯セットも準備していた。
部屋担当の仲居頭には到着されてお部屋へ案内した際、奥様と相談をして布団の下に敷くマットレスや電気カーペット、電気毛布の要不要の確認をして貰うことを命じていたが、数人のスタッフを集めて何かお喜びいただけるサービス発想が配下と打ち合わせをしたのは3日前のことだったが、その中に「ご退院おめでとうございます」というお祝いのしるしを認めた色紙をプレゼントするのも大切と、IT技術に長けた男性スタッフに任せることになった。
それぞれの3部屋には応接セットのある窓側の部屋もあるが、その隣室に4畳半の和室
にやぐら炬燵があるが、座椅子を多めにセッティングするように命じておいた。
会議の中で女性の事務所スタッフが先にお帰りなる二組のご夫婦にお土産をお持ち帰りいただくことが提案され検討したが、この地で一番という特別な新米の銘柄を孟宗竹に入れてプレゼントすることが決まり、社長の協力でその新米を作っている農家に電話で了解して貰った。
その農家の人物は地元で変人と呼ばれている人物だが、社長とは深い交流があり、届けてくれた時には栽培への拘りや美味しく炊く方法の説明書まで添えてくれていた。
近くにある竹藪の地権者に了解を得て持ち持ち帰った孟宗竹を適当な器にするのはこの旅館で最も器用と呼ばれる副支配人の仕事だが、誰もが驚くような仕掛けを施し、使用後は床の間の一輪挿しになるようになっており、その後は枯れて色が変わるとまた風情を感じるようになるのである。
過去にこの孟宗竹をプレゼントしお客様には、一輪挿しに硬貨を入れる貯金箱も可能なようにしてプレゼントしたら、500円硬貨を入れていたら竹が太いので予想外の金額は貯まり、その予算でまたご来館くださって嬉しかったことを憶えている。
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