互いが若女将の時代だった頃から交流のある女将がちょっとした不注意から転倒し、膝を強打して手術入院したことを知った。
転倒事故は旅館の玄関から駐車場側につながる階段で発生、手摺りがあるのに握らずにいたことが悪かったみたいで、転倒する原因となったのは和服の際に履く草履の鼻緒が突然切れたからだった。
もう互いが還暦を過ぎているので骨密度がダウンしている恐れもあり、2か月ほど前に会った際に骨粗鬆症にならないように気を付けて転ばないようにしようね」と言って別れたこともあったのに、こんなハプニングで思わなかった手術入院するとはびっくりだった。
カルシウムの摂取が重要でサプリメントも多く市販されているが、アメリカの研究発表では人間の骨の結成には様々食事から摂取されるもので、単に補助剤を服用しても効果が期待出来ないという記事もあったが、「いつの間にか骨折」という高齢者のケースも紹介されていたので気になっている。
手術が無事に終わって1週間が過ぎた。他府県にある彼女の旅館に電話を掛けて情報を得たら、支配人の話ではリハビリ中ということだったので、今日は昼前から夫と2人で見舞いに出掛け、食べる物に何の問題がないので彼女の大好物であるデコポンを取り寄せて持参することにした。
片道2時間半の行程だが、車の運転が好きな夫の「車の方が交通費は安い」なんて言葉から助手席に同乗することになった園子だった。
市街地にある県立の大きな病院に彼女は入院していたが、車載しているナビによって問題なく現地に到着。病室に訪れるとびっくりした表情を見せ、「ごめんなさいね。遠い所をわざわざ。こんな不細工なことを仕出かしてしまって恥ずかしい限りなの」と言った。
しばらくのリハビリで後遺症となる問題もないと聞いて安堵したが、「互いが若くないのだから気を付けましょうね」との言葉で病室を出た。
病院の駐車場から幹線道路を20分ほど走って高速道路に入ったのだが、山間部のトンネルを出た辺りから霧が立ち込め、それがどんどん酷くなり、ボンネットの前方にあるマスコットエンブレムも見えないぐらいになってしまい、前方を走行する車のテールランプも確認不可能だし、それよりも後方から追突されて大きな事故に巻き込まれたら大変なので、夫はしばらく走行して次のインターチェンジで降り、料金所を出ると「風もないしこの霧は当分消えないだろうから安全を考えて1泊して行こうか」と言い出し、ダッシュボードの中からいつも入れている時刻表を取り出し、終章部分にある観光地のホテルや旅館の情報ページを開け、「知らない旅館を利用することも勉強になるし」というと、携帯電話でその中の旅館に予約の電話を入れた。
そんな夫の思い掛けない行動に驚いた園子は、自分の携帯電話で自分の旅館の支配人に事情を伝え、今日のお客様の状況を確認して「お願いね」と頼んだ。
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