外国人観光客の来館が増えている。美里が女将をしている旅館には英会話に長け2人のスタッフが存在することもあり、旅行会社からの送客が多く、ご利用くださった方のブログへの書き込みから情報として広がり、わが国内で外国人向けの特化した旅館として注目をされている。
今、全国の旅館で仲居不足という問題が深刻になっている。想像以上にハードな仕事で酔っぱらう宴会のお客さん達の対応もあり、びっくりするほど離職率が高いのだが、いわゆる「各あしらい」が出来るベテランになると壁を越えられて定着するようで、それまで指導するベテラン仲居や女将の仕事が重要になっている。
高齢の方々が食前や食後に薬を服用されるのが多い昨今だが、水と白湯の配慮が喜ばれることも事実で、お客様からの会話から得ることになった薬の知識も今後のために重要なことで、事務所のスタッフがパソコンの中にそんな情報を整理しているのも世の中の変化の一つだろう。
美里の旅館では二つの新しい取り組みが始まっている。一つは英会話教室の先生を招いてスタッフの英会話の勉強をしていることで、もう一つは管理栄養士さんに料理長や厨房スタッフ達が持病を有されるお客様向けのメニューを学んでいることだった。
腎臓の悪い人、胃腸の悪い人、血糖値をコントロールしている人、高血圧の人など様々な病気の方もあり、個人情報の範疇で得られたことを料理長が特別に調理するもので、想像以上に喜ばれている。
あるお客様の部屋へご挨拶に参上したら、ご夫婦で来られているご主人が慢性膵炎でアルコールと油物を避けておられると伺い、当館の社長である夫も同じ病気で3回も入院していると伝えると「是非会いたい」と言われた。
そこで部屋担当の仲居からフロントに電話を入れさせ、社長に来て貰うように連絡したら、しばらくするとやって来た。
「社長さんも3回入院されているそうですな、私も3回入院した体験があり、担当医から『慢性膵炎です』と言われています」
「初めて患った時はびっくりしました。深夜に左肩に激痛を感じ、次の朝には嘘みたいに治り、二日後から寝返りも打てないほどの腰痛が三日間続き、次の日から腹部に鈍痛を感じ始めて医院へ行ったら、『紹介状を書くから県立病院の救急外来へ』と言われましてね、そのまま車で受信したら採血とCTの結果から入院と言われ、膵炎ということを診断されました」
「リパーゼとアミラーゼが異常に高い数値になるので分かるそうですが、私はCT撮影された時は『嚢胞が存在しているのでかなり症状が悪い』と言われました」
「やはりアルコールが悪いようで、2回目は旅行で食前酒を飲んだら戻ってから入院することになりましたし、3回目はレストランでノン・アルコールのビールを飲んだら戻ってから痛みを感じて入院しました」
「絶食を強いられる病気は最悪ですなあ。5日間、6日間、5日間と3回体験しました」
「それならまだましですよ。私なんか6日間、11日間、5日間でしたから。もう二度と体験したくないですね」
そんな会話で夕食タイムとなったが、管理栄養士さんの指導による膵炎患者用の食事が出され、その説明を社長が「自分もこれを食べています」と言って笑っていた。
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