女将の昌子のお気に入りは歩いて10分ほど離れた所にある喫茶店。ここで出される「玉子サンド」が最高で、疲れで食欲が落ちたらそこまで行くことにしているのだが、それはいつも昼食タイムだった。
フワフワとした食感が絶妙で、ある時に厨房で調理しているマスターに見学させて貰ったが、丁寧に教えて貰っても実際に家でやってみるとうまくいかず、その後日に「どうしてだろう?」と質問したら、「そこがプロとアマの違い」と言われた。
ある日、その玉子サンドを食べよう立ち寄ったら、近くの旅館の女将と会い、彼女は昌子の姿を目にすると席を移動してテーブルを挟んで昌子の前に座った。
「昨日ね、予想もしなかったクレームがあってね、本当に疲れて大変だったの」
そんな言葉から愚痴を聞かされることになったが、それは起こる可能性のある問題で、昌子も同情して慰めながら気を付けなければと考えさせられた。
「あのね、レストランルームでの夕食で起きたの。部屋が隣り同士という2組のご夫婦が夕食時に何かの縁と意気投合されて同席にされたのだけど、互いの料理内容も同じだったことから話が進展され、宿泊料金の話題になったことから問題が起きたの」
それは、一方のご夫婦が「ビールが1本付いているプランでね」と言われたことから「我々は付いていない。宿泊料金は?」と質問されて金額に差異がある事実が判明。飲み物が付いている方が安いという事実に疑問を抱かれ、次の日のチェックアウト時に「おかしい」とクレームに発展した出来事だった。
ビールが付いていると言われたご夫婦は、ネットから予約されたものであり、クレームのご夫婦は旅行会社の窓口で予約されており、「ビールも付かないし、なぜ高いのだ?」と立腹された訳である。
対応したフロントのスタッフが「ネットでの直接ご予約と旅行会社の窓口の違いです」と言葉で説明しても理解されず、「旅行会社の方が紹介だから安くなるのが常識ではないのか」と反論され、他のお客様もおられるところから女将と事務所スタッフがロビーのコーナーに移動して対応したそうだが納得されず、事務所スタッフがノートパソコンを持ち出してネットの世界を説明。多くのホテルや旅館の「HP」で「公式」と表記し、直接予約の特典として特別料金やワンドリンクサービスを謳っている事実を見せたが、それでも「旅行会社の方が安くなる筈だ」と言われたらしいが、横におられた奥さんの方は納得されたみたいで「お父さん、分かったでしょう。もういいでしょう」と宥めて落ち着くことになった事件だった。
ネットの世界を活用されていないお客様もおられる。スマホでネットに接続されて情報が把握出来ることも理解されていない人もいることは確か。そんな方々には旅行会社に対する信頼度は高く、そこを経ると紹介手数料が旅館の負担になることも理解されていないこともあるのでこんな問題が起きるのである。
昌子の旅館でも過去にチェックアウト時にお客様から問題を指摘されて改善したことがあった。それは電話予約時に「ネットを見ながら電話をしています」と言われたお客様に通常予約の料金で対応してしまったことで、「電話予約は直接でもネット予約扱いにはならないということになるのですか?」と質問されたことだった。
「申し訳ございません。受付時に対応ミスと連絡ミスがあったようです」とネットでの予約料金との差額とワンドリンクの料金分を返金。売店で販売しているお土産品を昌子が手提げ袋に入れて平身低頭して謝罪して解決した苦い体験だった。
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