関西ではかなり有名な建設会社の課長をしていた野沢は、異業種交流会で多くの人達との人脈が広まっていた。
交流会のメンバーには中小企業の社長や専務などの役員の立場にある人もおり、交流の中でそれぞれの人生観を学ぶことも多く、月に一回の定例会は楽しみとなっていた。
定例会には50名近くの人が出席するが、夕方に始まって1時間の会合が済むと会食という流れとなっていた。
会場はシティーホテルの会議室で、前課長の後任として出席するようになってから2年が過ぎ、ホテルスタッフとも顔馴染みとなっていた。
ある時、この組織の幹事をしている人物から会食後に「飲みに行こう」と誘われて応じることにした。その人物は200人の社員が存在する金属製造会社の社長で、上品なイメージがあってメンバーから信頼深い立場で、野沢も入会時より好印象を抱いていた。
案内されたのは超一流のクラブで、野沢も初めてという超高級な感じに戸惑うほどで、ママさんから20人ほどいる女性達もかなり洗練された世界だった。
幹事は月に何度か来ているようで、ママさんの対応振りから想像すると大切なゲストとして歓迎されているようだった。
少し離れたところでピアノの生演奏をしている。天井はあまり高くないが、壁の固さからピアノの響きがしっかりと聞こえる空間となっていた。
入った時には半分ぐらいの席が空いていたが、隣席にいる人物が財界では有名な人物で、野沢も新聞記事などで何度か見たこともあってすぐに誰かも理解し、ママさんも神経を遣って対応しているようだった。
その人物の表情が一変する出来事が起きた。それは、来店した客が伴って来た2人の客で、幕内で活躍する誰もが知る力士だったからである。
野沢はさすがに超一流のクラブだと思ったが、隣席の人はそう思っていなかったようで、しばらくするとママさんを呼び付けられ次のように言われた言葉が聞こえた。
「この店はいつから芸能人や各界の人達を連れて来る客が来るようになったのか。残念なことだ。私は今日が最後だ。有り難う。帰るから」
その人物は立ち上がってご機嫌斜めという感じで店を出て行かれた。ママさんが宥めるように追い掛けて廊下で謝罪していたようだが、野沢にはこの出来事が疑問に思えてならなかった。
そんな時、幹事がこの問題について教えてくれた。
「野沢さん、企業の経営者という立場は表立って芸能人や角界の谷町になることを嫌うもので、あの方もそれを感じられていたからだよ」
そんなことを初めて知った野沢だが、そこが一流と超一流の違いだとも教えられ、企業経営者のトップ達の意外な一面を知ることになった。
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