克美が女将をしている旅館から100メートルほど坂を上がった所に女将会で深い交友関係にあるホテルがあるが、午後一番にそこの女将が「腹立たしいことがあって」と鬱憤をぶつけに来館した。
「克美さん、最近のお客様には考えられない要求をされる方があり、今日も女将なんて辞めたくなった出来事のお客様を送り出したのよ。聞いてくれる」
話によると、事件が起きたのは昨日の夜のことだった。夕食が済んだ頃にある男性客がフロントにやって来て「駅に用事があるので送って貰えないか」と言われ、その時間帯はもう当直スタッフしかいないので「申し訳ございませんが」と返すと、「じゃあ、自分で運転して行くから車を貸して」と言ったそうで、非常識なことなので「申し訳ございません」と対応すると立腹されたそうで、その日の内にそんなやりとりをネットの投稿欄に掲載したというのである。
駅まで10分の距離なのでもう1時間早かったらきっと駅まで送迎しただろうと思うが、そのお客さんの所要とは「みどりの窓口」で特急の指定券の時間変更だったそうである。
半月ほど前、克美の旅館の男性スタッフが同じような要望で対応したことがあった。それは閑散期だから可能だったのかもしれないが、通常購入の指定券なら発車時間までなら1回に限り手数料なしに変更出来るという規定で、それをアドバイスしたら駅の近くで寄りたいところがあるので「少し早目に行って変更します」と解決したものだった。
ややこしい問題に発展してしまい、ネットに投稿までされてしまった怒りは理解出来るが、昔から短気な正確な彼女、やはりその投稿に対する反論を打ち込み、炎上に近い状況になる危険性もあった。
その問題の収束は彼女のホテルの顧問弁護士によって早々に解決したそうだが、一部が拡散されてしまった事実があってどうしようもないことを嘆いていた。
ネットに掲載するということは取り返しのつかないことになる危険性があるのも常識。エンターボタンを押すまでに冷静になることを忘れないようにしたい。
他の温泉地の旅館の出来事だが、理不尽な客の要望というよりも横暴に対して「出来ません」と対応したら、その客がネットの掲示板に誹謗中傷するような書き込みを行い、それに立腹した女将が反論する書き込みをしたことから大炎上。ネット社会で話題になった事件が起きている。
また、ネットの旅館紹介ビジネスから予約した客が「対応が悪かった」と感想欄に書き込んだら、それを読んだ旅館の社長が激怒してしまい、「紹介会社に手数料を支払う計算をすれば対応不可能なのは当たり前のこと。二度と当館へ来ないでください」と書き込んだのだから炎上するのも当たり前。約3ヵ月程想像しいやりとりが続いていたが、管理会社がその全てを削除してしまった事件も発生している。
ネット社会は「何でもあり」の状態だが、最低限度の礼節だけは忘れないで欲しいもの。ある専門家がそれを「品」という言葉で指摘していたことが印象に残っている。
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