イタリア人の姑が 八十六歳で亡くなってから、早七年の歳月が過ぎました。
姑は 大柄で健康そのものの女性でしたが、脳の前頭葉を癌に侵され、あっけなく他界してしまいました。
私と夫は 着の身着のままで何度ローマとミラノを往復したことでしょう・・・
姑が亡くなって以来、私たちは 一度もミラノに足を踏み入れていません。
私の夫は 一人息子。(一人っ子)
姑にとり、私の夫は それはそれは大切な・大切な宝物でした。
その大切な宝物をを奪った「東洋の魔女」、それが私でした。
姑は二・三ヶ月置きに、ローマの私たちの家にやって来ました。
それも、何時までという予定を立てずに、やって来ました。
気に入らない事があると、直に帰りの切符を買わなければと騒ぎ出し、
良ければ良いで、一向にお構い無しで、帰る気配はなし・・・
姑は 息子と二人きりで肩を並べて出かける時などは ドアの前で
見送る私に、精一杯の優越感を見せつけたものでした。
三人で、車で出掛け、家の前で下車する際に、突然、姑が
「私は息子と二人きりで話したい事があるから。」と言い出し、
私が一人先に車から降ろされることもあったりしました。
時には「四・五日しか、お邪魔しないから。」と前置きがあったにも
関わらず、姑の荷物を納めていたら、一つの大きな旅行鞄の中から
五足もの靴が出てきた時には、息が止まりそうになったのを想い出します。
(私も 若かったから・・)
何かにつけて、息子を奪った「東洋の魔女」の存在が お気に召さなかったようであります。
私にしても、魔女扱いされることは 快い訳がありませんでした。
何度も「そうだ! 姑と思わないで、ご近所の奥様 !」と自分に言い聞かせてはみたものの、それも難しく。
つくづくと、嫁と姑の問題は世界共通だと思ったものです。
悩み抜きました。
そして、考えついた事。
それは 自分と姑との間にある共通点を探すことでした。
共通点は「 私の夫であり・彼女の息子であるENZO」!
我々は 「ENZOを守る共同隊」にならなくてはと、私は決心した。
それからは 姑から毎日電話があっても、直に夫にコードレスを渡すのではなく、私が夫の様子を汲まなく報告することにしました。
姑は満足そうに、私の話に耳を傾けるようになりました。
姑の方も、その日の出来事や友人の事や街で見かけたコートを買おうか買うまいか。
時には 自分の息子のことを「あんなに難しいシィニョールをどうやって、相手しているの? 」「貴方には感心するわ。」「大変ねえ。」・・・などという
話にまで発展したものです。
私と姑は ENZOを守り続ける共同隊を結成するに至ったのであります !
しかし、脳を病に侵された姑の最期は 自分の大切な息子の名前さえ、
思い出せずに、他人の名を呼び、更に息子をスパイ扱いにまでし、嫁には
自分のバックに触るな ! と叫び。介護人にもコップや食べ物を辺りかまわず投げつけ・・・この世を去っていきました。
共同隊の隊長が亡くなってしまった後には 隊長になれる器の者はなく・・
自分が如何に姑を頼りにしていたかということを知らされた思いがしました。
今、ここで、生前の姑を想い出してみると、もう少し、やさしい言葉をかけてあげれれば良かったのになあと、自分を反省します。
私自身が若かったので、高齢者への労わりの思いに欠けていたのです。
嫁と姑は 正に「生きる共同隊」であるべきだと私は思うのです。
結成時は 嫁から働きかけて、隊長に相談事を持ち込んだり、
ありとあらゆる報告を汲まなくする事。
しかし、実際の共同隊の主導権は嫁にあるのです。
それが この世の流れというものではないでしょうか。
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乗客のコメント
国境を越えた家族、人生の縮図が伝わってきました。自分の身に重ねて考えてみて「それぞれの人生にそれぞれの苦楽あり」ということを今あらためて確信し、ある意味でホッとしています。
大阪ナイツ 大阪府(47)男性 2013/06/18
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