今日は不思議な町の話を。
昨年9月に公開された映画「人生、いろどり」の舞台となった地が徳島県上勝町(かみかつちょう)。人口2000人程、四国で最も人口が少なく65歳以上の高齢者が50%以上を占める典型的な少子高齢化の町である。
かつては、みかん栽培が盛んだったが、1981年の異常寒波で多大な被害を受け深刻な状況に陥った。高齢化の進んだこの町は「希望」という言葉とは無縁の典型的な過疎地だった。
しかし、あるとき奇跡が起こる。ひとりの農協職員が、山で採れる葉っぱを、料亭などで料理に添えて季節感を楽しませる料理の<つまもの>として販売することを発案。
70代、80代の女性たちを主戦力に事業を起こした結果、年商2億円以上を稼ぎだすビッグビジネスに成長。町はうるおいを取り戻し人口増加を記録するまでに変貌を遂げた。
商品化までに、品質や衛生面の確保、安定供給するための量産体制確立など様々な課題を乗り越え1986年に初出荷にこぎつけた。
生産者は全員お年寄りだ。“おばあちゃん”たちは、パソコンやタブレット端末の画面から市場ニーズや供給量などの情報を得、自ら需給バランスを考えて出荷量を調整し葉っぱを採取している。
自分の売り上げや採取仲間の間での順位なども知ることができるため、良い意味での競争意識をもたらし、中には年収1000万円を超す人も珍しくなくなった。
そして、この事業は町の福祉効果に大きなインパクトを与えている。
徳島大学医学部の調査結果では「働くことで自身の健康状態が良くなったと感じることにより、今の生活に対する満足感の向上や、加齢に対する否定的な気持ちの軽減につながっている」と述べている。
働くことが生活リズムを維持しやすくし、生活リズムが健康維持につながり、健康感が幸福感に影響を与えている。まさに“正”の連鎖が起こっている。
(2004年度のデータではあるが)上勝町では65歳以上の高齢者985人のうち寝たきりの老人はわずか1人だけ。また、国民健康保険の1人当たりの給付額が徳島県内50市町村(合併前)中、32位と顕著に低い。
さらには徳島県内で女性糖尿病患者数が最も少ないとも言われ、2007年から町営の老人ホームが廃止され、町の税金を別の用途に使えるようになった。
過疎の町から大変身したのは奇跡なのだろうか?
他の多くの自治体は「上勝町のやっていることは自分たちにはできない」「上勝町は人口が2000人ほどの小さな町だからできるのだ」と思うそうだ。だが、いづれも逃げ口上に聞こえる。
やりもしないで面倒なことはしたくないと否定する。人口2000人ほどの町でないとできないと自分で勝手に思い込んでいる。だが、世間にはそういう人が多いように思う。
その常識の壁を突き破れるかどうかが分かれ道になる。上勝町にはそういう人がいた。そういう組織ができていった。ひとりの農協職員の起こした行動が、町全体をイキイキとした生命体に変貌させた。
「希望のある町」はこうして生まれ、今も進化を続けているという。
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