今から2200年ほど前、中国を統一して絶大な権力を持った秦の始皇帝は、天下統一後、「永遠の命を得たい」と願うようになり、家来たちに不老不死の薬を探させた。
その頃、徐福(じょふく)という男が東海に不老不死の薬があり、自分が行って探してくると進言し、始皇帝は大いに喜んで、徐福に言われるまま、巨大な船と莫大な財宝と大勢の若者を与えて東海に送り出した。
東海というのは日本のことである。昔の中国人は日本に不老不死の薬があると信じていたようだ。しかし、徐福は二度と戻らず、始皇帝は熱病におかされて52歳で亡くなくなる。
不老不死の薬は権力者である皇帝にとって求めて止まぬもので、中国の歴代皇帝はいつの時代にも各地を探し回ったとのことだ。
さて、それから2200年もの時が経過した現代、識者の間で「不老不死」の議論が大真面目に行われているようだ。
ニュージャージー州立医科大学のドナルド・ルリア教授は、細胞や遺伝子の操作、そしてナノテクノロジーの進歩によって、人間は将来、これまで寿命の限界とされてきた年齢よりはるかに長く生きるだろうと述べている。
「10年前にSFだったことが、今はもうSFではない」
「昨今の劇的で急激な技術発展のおかげで、人間は120歳から180歳まで生きられるようになるだろう。一部の専門家は寿命に限界はなく、200歳、300歳、あるいは500歳まで生きられると主張している」と語っている。
しかし、老化を専門とする多数の科学者たちは、この主張には懐疑的だ。人間の体は120年以上も持つようには作られてはいない、と彼らは言う。生活スタイルが健康的になり、病気が減ったとしても、脳などの器官の機能停止が、結局人間に死の運命をもたらす、というのが大方の科学者の意見である。
不老長寿は昔からの権力者の夢。しかし、年老いて死を迎えることは、実は生まれる前から、すでに遺伝子(DNA)の中にその計画が書き込まれていることが、これまでの研究でわかっている。
人は精子と卵子が結合した一つの細胞(受精卵)から出発し、細胞分裂をくり返して約60兆個の細胞となり、赤ちやんの形で生まれくる。
細胞が分裂できる回数は生物の種類によって決まっており、人の場合では約50回なのである。細胞の中のDNAの両端には「テロメア」と呼ばれる部分があり、細胞が一回分裂するたびにその一部が切り取られてDNAが短くなっていく。
このため、テロメアは「細胞分裂の回数券」ともいわれている。そしてテロメアは、DNAの真ん中にある大切な遺伝情報が切り取られないように、50回の回数券を使いきると分裂をやめる仕組みになっている。
だから、人は無限の命を持つことができないのである。回数券を使い果たした細胞は「老化細胞」となる。
細胞の老化を進めるもう一つの因子は、「活性酸素」である。
呼吸中に、非常に化学反応をおこしやすい活性酸素が体内にでき、細胞の中の遺伝子に衝突して傷をつけていく。これが老化である。
さらに、この活性酸素は、細胞分裂のときにテロメアの消費を大きくすることも知られている。人のように酸素呼吸する生命体は、活性酸素による内部からの老化の宿命を初めから背負っているのである。
現在、テロメアと活性酸素の2つが、老化と寿命をほぼ決めていると考えられている。大きな病気もせずに、全身の細胞がこの回数券を上手に使い切ることができると、だいたい120歳ぐらいが「天寿」となるという。
フランスのジャンヌ・ルイーズ・カルマン氏が1997年に122歳で亡くなった。これが人類最長寿記録であることは、120歳あたりが「天寿」であることを裏付けているかのようです。
ところが、テロメアがもぎ取られていく回数券ならば、それを元につなぐ逆の働きをする酵素「テロメラーゼ」というのがある。
この「テロメラーゼ」が作用すれば、短くなったテロメアが元の長さに戻る。つまり、テロメラーゼを利用すれば不老不死の可能性もありそうだ。
しかし、...
不思議なことに人間では、生殖細胞と一部の体細胞を除き、ほとんどの細胞でテロメラーゼは働かない。そして、テロメラーゼが最も顕著に働いているのは、健康な細胞が異常をきたした「ガン細胞」に対してなのだ。
テロメラーゼによって、ガン細胞はテロメアの長さが維持され、永続的な分裂能力を獲得している。つまり、テロメラーゼはガンという悪役の「不老不死」に貢献している、という皮肉な話。
では何故、テロメラーゼは普通の細胞の「不死化」を助けてくれないのか?
これは未だ解明されていない...
だから、「生命あるものは全て、死ぬことを義務付けられて生まれる」としか言い様がない。
地球誕生以来46億年の時間をかけて、自然の力によって育まれ形成されてきた”生命”という奇跡のシステムを、たかだか数百年レベルの人間の力でどうこうしようとすることに大きな思い上がりがある、と私は思う。
人類は思い上がってはいないか?
生命や自然(地球環境)に対して、もっと謙虚な姿勢が必要ではないでしょうか。
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