函館ではお彼岸のお墓参りを21日と決めている人が圧倒的に多い。
それは1934年3月21日に起きた函館大火で多くの人命が失われたからである。
もともと強風が吹きやすい地形であるため、度々大きな火災に見舞われてきた。
『函館大火史』によれば、明治期には19件、大正期には6件という多さだ。
今では単に函館大火と言えば、昭和9年の大火を指すほど、この火災は市街地の三分の一を焼き尽くし、おびただしい死傷者を出すという最大級の火災であった。
時刻は午後6時53分、一軒の木造住宅から出火。当日は風速30m級の強風がぐるぐる回るように吹いていたという。火は瞬く間に燃え広がり、市内は恐ろしい勢いで火の海と化した。さながら地獄絵図だったに違いない。
橋が焼け落ちた川を渡ろうとした1000人近い人々は、折からの強風による激浪と火の挟み撃ちにあって溺死した。
北国の彼岸頃はまだ冬である。焼け出されて凍死した人は200名を超えた。
死者2166名。焼損棟数11105棟。あまりにも痛ましい火災であった。
春はもちろん秋のお彼岸も21日にお参りする人が多いのは、火災で亡くなった多くの御霊への鎮魂と悲劇を決して繰り返すまいという気持ちの表れであろう。
過去の教訓を契機に函館の街は整備され、防災に強い街づくりを推進することになる。
その象徴的なものが二つある。
一つは広く美しい坂とグリーンベルト。その代表が36m巾の「二十間坂」で、明治12年の大火後、防火帯としてできた坂。
同じ年に改良されたのが「弥生坂」。春を意味するその坂の名は街の発展を祈念して命名したとものと伝わる。
また「八幡坂」は映画やドラマのワンシーンに使われるほど眺めが素晴らしく人気の高い坂であるが、坂の上にあった八幡宮を明治11年の大火で焼失した後整備され、名前だけが面影を留めている。
もう一つ、他の地方で見ることができないものがある。
それは街のあちこちで目にする“黄色い消火栓”。
昭和9年の大火の後、アメリカの防災対策を視察した視察団が見た黄色い消火栓をそのまま採用したため、赤ではなく黄色になったのだという。
今ではこの黄色が函館の街に自然に溶け込んで、異国情緒と美しい景観に一役買っている。
消火栓で思い出したが、アメリカは防災教育の先進国である。
今年の2月のことであったか?アメリカの海軍で実践されている防災教育を日本で取り入れた保育園のことがテレビで紹介されて、衝撃を受けたことがある。
その中でも印象に残ったのは「服に火がついたらどうするの?」という問いかけに、子供たちはすぐさまその場で床に転がり出す。慌てず「止まって、倒れて、転がって」を合言葉に火を消すというものだった。
さらに、きれいな空気が下に残っていることを教え、身を低くして移動。
また重要なドアチェック。ドアノブをむやみに触って火傷をしたり、最悪の場合はドアの向こうが火の海ということもある。必ず手の甲で熱さを感知してから触る。手のひらより手の甲の方が熱さを感じやすいことも初めて知る事実だった。
知識だけではダメ。幼い子供達は訓練することによって身体で覚えていく。
番組を観ながら、自分で自分の命を守る術を教える防災教育の重要性を感じ、もっと普及させてほしいと強く願った。
災害は決して遠いところにあるのではない。
この瞬間にも我々を襲ってくるかもしれない。
今年の冬、北海道では暴風雪による痛ましい事故や遭難が続いた。
何れも自宅まであと数百m、1km以内で起こった悲劇である。
自然災害の前に人は無力かもしれないが、被害を最小限に食い止め、自分を守り、一人でも多くの人命を救う知恵や手段はあるはずだ。
そのためには震災や大火、そしてあらゆる不幸な災害の記憶を風化させずに次世代へ語り継ぐこと、差し詰め函館人なら21日にお参りする理由を後の世に伝えることが今を生きる我々の使命だと、79年目の函館大火の日に改めて思った。
世界三大夜景の一つと称される函館山からの市街地の夜景の美しさは観る者を魅了する。大火で焼かれても失っても、何度も何度も立ち上がってきた“復興の光”だからこそ、これほど人に感動を与えるのかもしれない。
今日は彼岸明け。
彼岸が過ぎれば、北国の春もまもなくである。
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