朝の時間、満員の電車に乗っていているとハプニングが起きた。
私の乗った電車は、駅にまもなく到着しようとしていた。車体の約半分はホームに入っていた。電車が減速し、徐行スピードになった時だった。
後方でドンという音がした。
「あっ」「うわっ」という声がして振り返ると、30才くらいの通勤中と思われる男性が仰向けに倒れていた。
もしかすると、後頭部を強打したのかも知れない。体を直立したまま倒したような恰好で、目が半分開いた状態。意識がなさそうに見えた。
周りの乗客も唖然としたまま誰も声を発しない。数秒が経過した。このままでは何か悪い方向に転がっていく予感がした。
血は出ていないようだが、頭の位置が気になった。頭を上げるとまずいかもしれない。頭を体よりも下げた方がいいのでは?いろんな思いが駆け巡った。
その間、おそらく5~10秒くらいの間であったろうが1分くらいに感じた。その時だった。
急病人の隣にいた30代から40代くらいの男性が大声で「誰か、緊急連絡ボタンを押してください」
「車内で倒れた人がいると言ってください」
車内は混雑していた。身動きはできない。後は言葉で伝言するしかない。
電車の連結部に緊急連絡ボタンがあった。伝言を聞いた一人の若者(姿は人混みで見えないが、あとで聞いた声から若い人と思う)が、それを受けてボタンを押した。その途端に電車はガタンと急停車した。
ほとんど停まりかけていた状態なので乗客は横倒しにはならず、車掌がスピーカーを通して「どうしましたか?」と尋ねてきた。
「あ、あのぉ・・・」
突然のことでボタンを押した男性は動揺してうまく言葉がでない。
業を煮やした最初にボタンを押すように指示した男性が「車内で倒れた人がいる、と言ってください」と大声で言った。
ボタンを押した男性は、マイクを通して車掌に、急病人が発生したことを伝えた。
急病人のことがもちろん気になっていたが、こういう時に少し冷めた目で見る(嫌味な)クセがある私は、この後どういう展開になるのか?鉄道側はどう対応するのかを注目していた。
すると車掌は、マイクを通して「今、連絡くださったお客さま。この電車は駅に半分入った状態で停車しています。後半分をホームに入れてからでも大丈夫でしょうか?」
(乗客)「は、はい。大丈夫です・・・」
(車掌)「電車を発車させます」
電車はゆっくりと動き出し、やがて全車両が完全に駅のホームに収まり、乗り降りのドアが開いた。
急いでドアを飛び出して各駅停車に乗り換える人、改札口に急ぐ人...それぞれの人生がある。この瞬間に、何もなかったような日常が戻っていた。
病人の救助と乗客の混雑緩和を一度に解決した車掌の判断は、ごく当たり前のように実行された。しかし、その判断のスピードと的確性は「たいしたもの」と褒めてあげたい。
各駅停車に乗り換えた私は、つり革を握りながらその後の様子を遠目に見ていた。
倒れた乗客は意識を取り戻し、立ち上がってドアの外に出て「大丈夫です」と、連携をとって車掌に連絡してくれた男性二人に頭を下げていた。しばらくすると車掌が走り寄ってきた。
さらに駅員も駆け付けた。倒れた男性は腕を抱えられて駅のどこかに去って行った。それを見届けた二人の男性は乗っていた同じ電車に乗り姿がみえなくなった。きっと何か会話を交わしていることだろう。
その電車が先に出て、しばらくして私の乗っていた各駅停車の電車も走りだした。
ドラマのような出来事で朝が始まる。これで2回目だ。悪い感じはしない。
日本の若者もやるね。
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