朝の通勤時間帯に電車に乗っていた。
大阪市外なのでそんなに混んではいないがそれでも座席はいっぱいで、つり革を握っている人も多い。
快速電車が停まるある駅で、乗客がどっと降りて、たまたま席が空いたので腰をかけた。
その駅でしばらく発車時間の調整があり停車していたが、パラパラと人が乗ってきた。社会人だけでなく学生も乗り込んでくる。
足元に目をやると、缶コーヒーの空き缶がドアの近くに転がっていた。乗り込んでくる人は誰も無視して通り過ぎていく。
転がってくる空き缶を避けるように、または見なかったように、誰もが無視していたところに、一人の女子高校生が乗り込んで来た。
一瞬ためらった素振りを見せたが、意を決して、転がっているその缶を拾い上げ、転がらないようにまっすぐに立てて、ドアの隅の、人に蹴られない位置においた。
少し恥ずかしそうな仕草をしたが、数秒後には普段の様子に戻ったように見えた。
その様子をぼんやりとした頭で見ていた私だが、若者の心の優しさにちょっと感動した。
しかし、誰も見ていない、いや、見ていても誰も評価してくれない「ちょっとした善意」に気が付いた以上は、何か声でもかけてやりたいという衝動に駆られた。
しかし、いきなり赤の他人に声をかけられたら「ストーカー」か「変質者」と見られてしまうのがオチ。世知辛い世の中になってしまっている。(但し、それは大阪のような大都市だけの話かも知れないが)
そうこうしているうちに、私の下車する駅に着いた。
腰を上げて出口のドアに向かった。そのドアの前に彼女は立っている。足元から30cm離れた所に例の空き缶が立っている。
一瞬迷ったが、これも一期一会。
ドアの脇にヒッソリと立ててあった空き缶をゆっくり拾い上げて、これまたゆっくりと彼女の方に首を向けた。そこで彼女がどういう反応をするかが問題だ。
驚いた表情をしていた。
「何をする気なの?この変なオジサンは・・・」という表情に見えたが、空き缶を目の位置に持ち上げて私が言ったのは...
「ありがと・ね」
次の瞬間に返ってきた言葉に今度はこっちが驚いた。
「おはようございます」
・・・・・・・
その後、互いにニッコリ。
高校生の見事なレスポンスを受けて私は電車を降り、自動販売機の横にある空き缶入れ専用のゴミ箱に空き缶をポイした。
おそらくその様子を彼女は車内で見ていたに違いない。
阿吽の呼吸で交わした言葉に、私も彼女も「いい一日が始まった」のは確かだった。
※コラムのタイトル、日付、本文、追記から検索できます
乗客のコメント
よろしければコメントを投稿してください。
to 世界中から集まってくる戦闘員を魅了するものは ?
by 大阪ナイツ
2014.10.21
by 大阪ナイツ
2014.10.21
to 「アイ ラブ ユー、東京」
by 大阪ナイツ
2014.10.11
by 大阪ナイツ
2014.10.11
to シィニョーラ シルバーナへの想い
by かめ
2014.09.11
by かめ
2014.09.11
to 「久世栄三郎の各駅停車」はしばらくお休みします
by 青空
2013.12. 6
by 青空
2013.12. 6
to オリーブのパン
by のんたん号
2013.11. 2
by のんたん号
2013.11. 2
to オリーブのパン
by 大阪ナイツ
2013.11. 2
by 大阪ナイツ
2013.11. 2
to ローマの猫たち
by 大阪ナイツ
2013.08.31
by 大阪ナイツ
2013.08.31
to 心の極限状態から・・・・・
by 大阪ナイツ
2013.08.12
by 大阪ナイツ
2013.08.12
to 長寿心得
by 田園豆腐
2013.07.20
by 田園豆腐
2013.07.20
to イタリアのワイン文化
by 大阪ナイツ
2013.07.10
by 大阪ナイツ
2013.07.10
コメントはこちらから
あなたの心に浮かんだ「ひと言」が、誰かやあなた自身を幸せに導くことがあります。
このコラム「その時、学生は何と言ったか」へのコメントを投稿してください。