幸せ列車の「出山映子の世界」でお馴染みの出山先生が、毎年恒例の美術展「第69回現展」に絵画(天と地:あめつち)を出展された。東京、名古屋、大阪で5月から7月の3ヶ月間にわたり展示会が行われ、7月21日の大阪展で全行程が終了した。
私は7月20日に大阪市立美術館(大阪市天王寺区)に観賞に行った。出山先生は昨年「損保ジャパン奨励賞」を受賞している実力派だ。今年は天と地をモチーフにした幻想的でメルヘンな作品を出展されていた。目の保養をして帰路についた。
行き来する人も増えた昼下がり、帰路の地下街でむこうから“アルプスの少女ハイジ”がやってきた。よく見るとハイジではなく出山先生であった。白いブラウスに赤いエプロンのようなスカートがハイジに見えた。(ちょっと年齢差はあったが)
先生はこれから美術館に行かれるところだった。「ご苦労様」「暑いですねえ」と立ち話になった。「それにしても広い大阪の、人の多い地下街でバッタリ会うのは不思議ですね」「偶然というのはこのことでしょう」
そんなやり取りの後、先生が気仙沼に住む弟さんのことを話し出した。なんでも、たこ焼き屋を開業したらしい。
弟さんは大阪出身。本場大阪のたこ焼きの味と明るいキャラクターが評判になり新聞にも載ったという。震災で暗いムードになっている商店街に明るさを呼び戻すことに貢献しているとのこと。
その時にお願いして、記事が載った新聞各紙の写しを送ってもらった。実は以前に、この弟さんに大阪で会ったことがある。出山先生の個展会場で紹介してもらったことがある。
その時は震災直後だった。未曾有の災害で辛い心境だったはずなのに、口から出るのは前向きで元気いっぱいの言葉ばかり。ちょっと驚いた。そんなとびきり明るい人だったので印象に残っている。
そして、たこ焼き屋の記事が載った三陸新報、河北新報、讀賣新聞の記事が届いたので拝見したが、迷うことなく一筋に頑張っている姿の写真が掲載されていた。なにわのたこよしというのが店名。大阪のおっちゃんを自称する。
大阪府守口市出身の弟さん(松下初男さん67)は、仙台市に住んでいたが17年前に奥さんの故郷・気仙沼に移り住んだ。市内の食品工場で働いていたが2011年8月の定年退職を目前にして震災に遭った。
テレビで見たが、気仙沼は町がまるごと火に包まれて真っ暗な闇に山火事のように焔が燃えあがっていた覚えがある。よくぞ生き残ったものである。
当初は定年退職と同時にお好み焼き、明石焼きの店をオープンする予定だったが、震災時点では開業していないので、行政の支援も受けられず無念な思いをされたようである。
店舗に予定していた建物やお店で使う鉄板などの器材も震災で失った。だが、あきらめずにご自分の夢を追い求めてきた、その様子を新聞各紙が伝えている。
出山先生から「弟のことを幸せ列車に載せてあげて」と依頼されたのは事実であるが、実はこんな機会がなければ遠い東北の地のことなど普段は無関係、無関心のまま過ぎてしまう。
あの時はあんなに自分のことのように心が痛んだと言うのに。時の経過は無残にも全てを消し去ってしまう。「そんなことでいいのか」と思い、自戒を込めて、この幸せ列車の読者にもご紹介しておこうと思った。
この弟さんは「シャッター街を元気にしたる」と言っている。だが、少なくとも私はこの話で元気になった。前に進む勇気が出てきた。きっとこれを読まれた読者の何人かも元気になられるだろう。松下さん、シャッター街の他にも、あなたの“元気”が届いていますよー。
頑張ってください!そして“元気”を送り続けていただきますように。
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