桜前線がいよいよ北海道に上陸し、函館の開花宣言もまもなくである。
平年より少し遅れたが、近くの桜ヶ丘通りでは桜の蕾がふくらんで出番を待ちかねるように、ピンク色に染まっている。
ソメイヨシノは氷点下24度を下回る地域では育たないので、道東や道北でその姿を見ることはできないが、道南から札幌周辺まではソメイヨシノが標本木となっている。
300種以上ある桜の中で、桜と言えばソメイヨシノと言われるほど日本に圧倒的に多いこの桜の歴史は意外に新しい。
江戸時代後期から明治にかけてエドヒガンとオオシマザクラのかけ合わせ、あるいは突然変異によって誕生した園芸品種で、昭和のはじめ頃まで盛んに植えられるようになった。
大流行した訳は接木が簡単で成長が早く、花が枝いっぱいに咲くからということだが、私は色といい、形といい、あの何とも清らかな風情にもあると思っている。
日本人に桜が好まれる一番の理由は散り際の美学にあるのではないか。
潔く舞い散る姿は死を連想させる。死の後には必ず再生が待っている。死と再生の輪廻という死生観が花びらのほんのりとしたピンク色と相まって、自分の人生を重ね合わせてしまうのかもしれない。
もし桜から桜色を抽出しようとしたら、それは花からではなく桜の木の真っ黒なごつごつした皮からとるという。
そのタイミングは花が咲く直前の蕾の頃に限定される。
正しく今私の見ている桜の状態ということである。
その証拠に春先に剪定されて切り落とされた桜は、花瓶の中で花が咲いても白いのである。
木が樹液を一生懸命枝葉に送り出し、太陽の力を借りて長い旅路の果ての姿が花になるのだという。人の目には見えないが、すでにあの美しい桜色が木の根っこにも幹にも枝にもたっぷりとあるのだと思うと、その神秘に心を打たれる。
人は桜が咲いた、散ったと騒ぐけれど、桜の木は毎年命を使い果たして咲いていたのだ。桜にとっては一年の最後の姿。
夏に花芽をつけた桜は一端休眠し、一定期間低温にさらされることにより目覚め、また花を咲かせる準備を始める。
そんな秘められたパワーがあるからこそ、見る人すべてに沢山の元気を与えることができるのだろう。
しかも桜は長寿である。樹齢300年、400年という桜も全国には珍しくない。日本一の長寿の神代桜は推定樹齢2000年。また今見頃となった福島県三春の滝桜は樹齢1000年を超えるという。さぞかし圧巻であろう。
しかし、これはすべて自生する桜のことで、ソメイヨシノの寿命は長くて100年と言われている。
ある桜守の言によるとソメイヨシノは結実することのない品種。自生できないいわゆるクローン桜であり、そろそろ一斉に枯れはじめる時期にさしかかっているのだという。
桜はクローンかもしれないが、そのお陰でこのように日本全国に広がり、ごく身近で愛でることができるようになったことも事実である。
この美しい景色を守るためにこれから人の努力が必要ということであろう。
函館の桜の名所五稜郭公園には大正3年から10年を費やしてソメイヨシノをはじめ、南殿、関山、普賢象といった桜1万本が植樹されたそうである。
現在はそろそろ樹齢90歳から100歳を迎える1600本の桜が見事に生き続け、五稜の星のお堀端を桜色に染める。
桜の木の間をカモメが飛ぶ姿もここならではの光景だろう。
今こそ桜の逞しさに支えられてきた恩返しをしなければならない。
さながら介護のようでもある。
今年は桜守の気持になって、桜のことを心配しながら、桜の木の下に佇むことにしよう。
だが、人の介護と同じように支えていると思っていたら、いつのまにか支えれれているのかもしれない。それほどのパワーが桜にはある。
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